八方池山荘を出たとき、空は白く、雨が少しずつ落ちていました。
本当なら大きな景色が広がるはずの八方池も、丸山へ向かう道も、この日は霧の中。
足元を確かめながら進む時間が続きました。
けれど、唐松岳頂上山荘へ近づくころ、少しずつ空が明るくなっていきました。
白い雲の中から抜け出すように視界が開け、目の前に五竜岳がそびえ、テント場の向こうには剱岳が浮かんでいました。
雨の下を歩いていたはずなのに、気づけば雲の上にいる。
その不思議な瞬間が、唐松岳でいちばん心に残っています。
夕暮れにもう一度登った山頂、朝の光の中で見た剱岳。
雲と山がゆっくり表情を変えていく時間を、静かに眺めた山旅でした。
これは、八方尾根をたどり、唐松岳で雲海と剱岳に出会った記録です。
雲を抜けて、唐松岳の稜線へ
白馬八方からリフトを乗り継ぎ、雲に包まれた八方尾根へ入っていきます。
歩きはじめは雨と霧の中。八方池も白い景色に包まれ、遠くの山々はまだ見えません。それでも、登山道を一歩ずつ進んでいくと、丸山を過ぎたあたりから空の色が少しずつ変わっていきます。
雲の切れ間に青空が見え、視界が開けた先には唐松岳の稜線。さらに、剱岳や五竜岳の大きな山並みが姿を見せてくれます。
天気が変わっていくたびに景色も気持ちもふっと明るくなる、そんな山の上ならではの高揚感を味わえる山旅でした。
朝の上野駅から、白馬へ向かう

6時15分、上野駅から北陸新幹線に乗り、長野駅へ向かいました。
まだ朝の空気が残る駅を出るとき、これから遠い山の入口へ向かうのだと思うだけで、少し胸が高鳴ります。

車窓の向こうに山の気配が見え始めると、街から山へ、少しずつ心が移っていくようでした。

長野駅に着き、白馬乗鞍行きのバスへ乗り換えます。
電車からバスへ。
乗り物を変えるたびに、山が少しずつ近づいてくる気がしました。

白馬八方から、空へ上がっていく
9:35 白馬八方バスターミナルに到着しました。
八方ゴンドラ駅へ向かいます。
ゴンドラに乗ると、体はまだ地上に近いのに、景色だけがどんどん遠くへ広がっていきました。
リフトに乗り換えるころには、山の空気が少しずつ近くなっていきます。
歩く前から、山の高さへ運ばれていく時間。
それは少し不思議で、これから始まる山旅の入口のように感じました。

八方ゴンドラリフトに乗ると、兎平というところが一旦最後の駅になります。
兎平から2つのリフト(アルペンクワッドリフト、グラートクワッドリフト)を乗り継ぎ、八方池山荘を目指します。

兎平駅からアルペンクワッドリフト黒菱平行に乗り継ぎます。

10:15 さらに黒菱平でグラートクワッドリフトに乗り、 八方池山荘(頂上駅)へ向かいます。
八方池山荘から、霧の八方尾根へ

10時22分、八方池山荘に着きました。
ここから、まず八方池を目指します。
歩き始めると、空はだんだん白くなり、雨もぱらついてきました。
八方尾根は本来なら大きな展望が広がる場所のはずですが、この日の景色は霧の中に隠れていました。


八方ケルンに着いても、まわりは白いまま。
八方池と思われる場所に来ても、池も山も、ほとんど見えませんでした。
けれど、見えないから何もないわけではありません。
霧の中にも、濡れた草や、足元の石や、静かな山の気配があります。
大きな景色を待ちながら、白い道を一歩ずつ進みました。

11:05 おそらくここは八方池と思われますが、何も見えません。
丸山を過ぎて、雲の上へ

12時15分、丸山に着きました。
相変わらず、まわりは真っ白でした。
どこまで歩いても景色が開けず、空も山も霧の中に沈んでいます。
けれど、少し進むと、白い世界の奥にうっすら明るさが見え始めました。




そして、気づくと雲を突き抜けたように、視界が開けました。


さっきまで雨の中を歩いていたのに、今は雲の上に立っている。
山では、ときどきこういう信じられないような瞬間があります。
その変化があまりに美しくて、疲れも不安も、静かに消えていきました。
唐松岳頂上山荘と、剱岳を望むテント場

13時、唐松岳頂上山荘に着きました。


小屋のまわりに出ると、目の前には五竜岳が大きくそびえていました。
どっしりとした山容で、雲の上に立つ姿はとても力強く見えます。



少し先には唐松岳の山頂。
そして、テント場の正面には剱岳が姿を見せてくれました。
人の居場所は本当に小さいのに、目の前の景色はあまりにも大きくて、ただ黙って見つめていたくなりました。


唐松岳のテント場は傾斜地にあり、小屋に近い場所から埋まっていくようでした。
下のほうになると小屋やトイレへ行くのは少し大変ですが、そのぶん剱岳を正面に望む特別な場所でもあります。
ここで過ごす夜は、きっと忘れられないものになる。
テントを張りながら、そんな予感がしました。



テント場の正面の山は剣岳です。
こちらも姿を現してくれました。
これから唐松岳山頂に向かいます。

白馬村方面です。下界は雲の下ですね。


白馬岳と思われます。

唐松岳山頂へ

14時15分、唐松岳の山頂に着きました。

山頂からは、唐松岳頂上山荘とテント場が見えました。
さっきまでいた場所が、山の中に小さく寄り添うように見えます。
剱岳は、雲の間からちらちらと顔を出していました。
見えたり、隠れたり。
そのたびに、山の表情が少しずつ変わっていきます。


唐松岳頂上山荘とテント場



山頂から唐松岳頂上山荘まで下りてきました。

ここはヘリポートで物資が定期的に運ばれてきます。

かなり望遠レンズですが、遠くに富士山も見えます。


雲は稜線を越えるように流れ込み、山の景色をゆっくり動かしていました。
山は止まっているようで、いつも動いている。
光も、雲も、風も、同じ景色を二度と見せてはくれません。
その一瞬の中に立っていることが、とてもありがたく思えました。

ここのテント場は剣岳の絶景スポットですね。


五竜岳もどっしりとした山容です。
五竜岳の向こうは鹿島槍ヶ岳ですが、ここからは少ししか見えません。
夕暮れの唐松岳山頂へ

17時45分、夕暮れの景色を見るために、もう一度唐松岳山頂へ登りました。

山頂には誰もいませんでした。
昼間に見た景色と同じ場所なのに、夕方の山はまったく違う静けさを持っていました。
小屋には明かりがつき始め、遠くの空には山の輪郭が少しずつ暗く沈んでいきます。





望遠で見ると、槍ヶ岳の山頂も見えました。
遠い北アルプスの稜線が、夕暮れの中に静かに浮かんでいます。



白馬村の明かりも見えました。
山の上から見る街の灯りは、どこか遠い別の世界のようです。
あの灯りの下にも人の暮らしがあり、こちらには風の音と山の影があります。

夕暮れの山頂で、ただ静かに景色を見ていました。
一日が終わっていく時間を、山と一緒に見送っているようでした。
朝の光と、くっきり見えた剱岳

4時30分頃、あたりがうっすら明るくなり始めました。
街の灯りがまだ残る中、空だけが少しずつ朝の色に変わっていきます。
夜と朝のあいだの時間は、とても静かです。

4:45

4:55

残念ながら、太陽は雲の中でした。


5:30 かなり明るくなりました。


空が明るくなるにつれて、剱岳の姿がはっきりと見えてきました。
この朝の剱岳には、雲がかかっていませんでした。
昨日は見えたり隠れたりしていた山が、朝の光の中で、まっすぐこちらを向いているようでした。
その鋭い山容は厳しく、美しく、簡単には近づけない強さを感じさせます。


山頂で朝日を浴びることだけが、朝の美しさではありません。
雲の多い空の下でも、そこに剱岳がくっきりと立っている。
それだけで、十分に心を満たしてくれる景色でした。
展望を楽しみながら八方池へ下山

8時、下山を開始しました。
昨日とは反対側から、唐松岳頂上山荘とテント場を眺めます。
朝の光の中で見ると、昨日ここで過ごした時間が少し遠いもののように感じました。

五竜岳へ向かう牛首のあたりも見えました。
細く険しそうな尾根です。
いつか歩いてみたい気持ちはありますが、今は遠くから静かに見つめました。

下っていくにつれて、白馬岳が少しずつ高く見えてきます。

8時55分、丸山に着きました。
昨日は真っ白で何も見えなかった場所です。
でも今日は、そこに広い展望がありました。
五竜岳と鹿島槍ヶ岳、そして白馬岳。
それぞれの山が、それぞれの形で空に立っています。





見えなかった場所に、こんな景色が隠れていたのだと思うと、山の奥深さを感じました。

10時15分、八方池に着きました。
昨日は霧の中でほとんど分からなかった場所も、帰りにはその姿を見せてくれました。
同じ道を歩いているのに、天気が変わるだけで、まったく別の山旅になる。
山は、見える日も、見えない日もあります。
でも、そのどちらにも、その日だけの意味があるのだと思いました。
リフトとゴンドラを乗り継ぎ、唐松岳の山旅は終わりました。
この山旅を振り返って
この山旅でいちばん心に残っているのは、雲を抜けた瞬間の景色です。
八方池へ向かう道も、丸山へ続く道も、はじめは雨と霧の中でした。
何も見えない白い時間が続き、ただ足元を確かめながら歩いていました。
けれど、唐松岳頂上山荘へ近づくころ、空が少しずつ明るくなり、雲の上へ出たように景色が開けました。
目の前には五竜岳。
テント場の向こうには剱岳。
下界は雲の下に隠れ、山だけが静かに空の上へ浮かんでいました。
夕暮れの唐松岳山頂では、山小屋の明かりと白馬村の灯りを眺めました。
朝には、雲のない剱岳がくっきりと姿を見せてくれました。
登山は、いつも最初から美しい景色が約束されているわけではありません。
霧の中を歩く時間もあります。
雨に濡れる時間もあります。
それでも、歩き続けた先で、思いがけず雲がほどけることがあります。
唐松岳で出会った剱岳と雲海は、そんな山の美しさを静かに教えてくれる景色でした。
唐松岳
場所
長野県北安曇郡白馬村北城
近隣の山
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- 宿泊/テント場料金は?
- 温泉/風呂はある?
- 注意事項は?
などの詳細な情報は以下に記載しています。
コース
八方池山荘から唐松岳山頂へ
2日目(2017.9.16)
唐松岳山頂→八方池山荘
| 出発 8:00 | 唐松頂上山荘 |
| 8:55 | 丸山 |
| 10:20 | 八方池 休憩 |
| 到着 11:20 | 八方池山荘 |
特徴
- ゴンドラ、リフトで1,850mまで上がれるため、比較的楽に登れる。
- 鎖場、はしごなど危険個所はほとんどないので、初心者でも安心。
- 剣岳の絶景スポット。(特にテント場)
- 唐松岳頂上山荘と山頂が近いため、いつでも山頂に登れる。
アクセス
行き
JR上野駅から八方池山荘へ
気象情報
| 天気 | 天気(山頂) | 気温 | 気温(山頂) | |
|---|---|---|---|---|
| 9.15 | 曇りのち雨(八方池山荘) | 晴れ(唐松岳山頂) | 18度(八方池山荘) | 17度(唐松岳山頂) |
| 9.16 | 曇り時々晴れ(八方池山荘) | 曇り時々晴れ(唐松岳山頂) | 19度(八方池山荘) | 17度(唐松岳山頂) |
持ち物
今回使用した持ち物は以下です。




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