冬の八ヶ岳へ向かいました。
美濃戸口を出発した朝、登山道のはじめには、まだ雪のない場所も残っていました。
けれど、山の奥へ進むにつれて足元は白くなり、見上げた峰々も、すっかり冬の姿に変わっていきました。
赤岳鉱泉から少し先へ歩くと、風は強く、寒さはこれまで経験したことのないほど厳しいものでした。
それでも、夕方には赤く染まる山があり、夜には数えきれないほどの星がありました。
山頂には立たなくても、冬の山が見せてくれた一日には、心に残るものがたくさんありました。
白い山へ近づいていく
美濃戸口から、冬の八ヶ岳へ


美濃戸口の八ヶ岳山荘から歩き始めました。
このあたりには、まだほとんど雪がありません。
冬の八ヶ岳に来たはずなのに、足元には土や落ち葉も見えていて、少しだけ季節の境目に立っているような気持ちになりました。
ここから山の奥へ進むにつれて、景色がどのように変わっていくのか。
冷たい空気の中で、静かに歩き始めます
美濃戸の静かな道

11時20分、美濃戸に着きました。
建物のまわりを過ぎ、さらに奥へ進んでいきます。
人の暮らしが感じられる場所から、少しずつ森の静けさへ入っていく道です。
歩いてきた道を振り返ると、遠くに山の姿が見え始めていました。
木々の向こうに見えた横岳

森の向こうに、横岳が見えてきました。
近くの道にはまだ雪の少ない場所もあるのに、山頂付近は白く覆われています。
見上げる場所によって、冬の深さがまったく違って見えました。
遠くにある白い山を見ていると、これから本当にあの山々のそばへ入っていくのだと、少しずつ実感が湧いてきます。


標高が上がるにつれて、登山道にも雪が増えてきました。
雪は積もっていますが、このあたりでは、まだ慎重に歩けば進める程度でした。
白くなった道を一歩ずつたどりながら、赤岳鉱泉を目指します。
木々の間に流れる空気は冷たく、足元からも冬の気配が伝わってきました。
もうすぐ山小屋です。

氷に囲まれた赤岳鉱泉


13時、赤岳鉱泉に着きました。
小屋のそばには、大きな氷の壁がつくられていました。
冬の赤岳鉱泉を象徴するアイスキャンディです。
水が凍り、これほど大きな壁になることに驚きました。
青みを帯びた氷は冷たく硬いはずなのに、光を受けると、どこか静かで美しく見えます。

小さな金属の先とアイゼンで、氷に体を預けながら登っていく。
見ているだけでは想像できないほど、集中力も勇気も必要なのだと思います。
同じ冬の山にいても、その向き合い方は人によって違います。
静かに歩く人もいれば、氷の壁へ挑む人もいる。
それぞれが、自分の方法で冬の自然に触れているように見えました。


硫黄岳へ続く道

15時。
日が暮れるまでにはまだ少し時間があったため、硫黄岳方面へ歩いてみることにしました。
赤岳鉱泉を離れると、山小屋のまわりにあった人の気配が、少しずつ遠くなっていきます。
雪の中に続く道を歩きながら、無理のないところまで進みます。

振り返ると、赤岳が大きく見えていました。
雪をまとった山肌は、夏とは違う厳しさを感じさせます。
近づきたい気持ちはありましたが、この季節の赤岳には、簡単には踏み込めない強さがありました。
いつか、十分な経験と装備を整えて、冬の赤岳にも向き合える日が来たらと思います。
今はただ、その姿を遠くから静かに見つめました。

遠くの空には、南アルプスの山並みも見えていました。
中央に見える白い山は、甲斐駒ヶ岳でしょうか。
八ヶ岳の雪道を歩きながら、その向こうに別の山域が見えることに、山の世界の広さを感じます。
ひとつの山に立つと、また別の山が見える。
そのたびに、いつか歩いてみたい場所が少しずつ増えていきます。

風の強い、赤岩の頭へ


15時20分、赤岩の頭まで来ました。
ここから先へ進むには、今の装備では十分ではありませんでした。
特に足元は軽アイゼンだったため、これ以上は進まず、ここで引き返します。
山頂が近くに見えても、進めるとは限りません。
歩きたい気持ちより、安全に戻ることを選びました。
山の中では、引き返す判断も、大切な一歩なのだと思います。

目の前には、硫黄岳が見えていました。
写真の中では静かに見えますが、実際には立っているのもつらいほどの強い風が吹いていました。
冷たい空気が体の熱を奪い、これまで経験したことのない寒さを感じました。
山は美しいだけではなく、とても厳しい場所です。
そのことを、風と寒さがはっきりと教えてくれました。
硫黄岳の姿を心に残し、赤岳鉱泉へ戻ります。
次に来るときは、この季節の山に合った装備を整え、きちんと向き合いたいと思いました。

赤岳鉱泉に戻ります。
次回は装備をちゃんとして硫黄岳山頂に挑戦したいです。


赤岳鉱泉へ向かって雪の道を下っていきます。
行きには目の前の道ばかり見ていましたが、帰り道では、少しずつ暮れていく空の色が気になりました。
風の強い場所を離れ、森の中へ戻ると、少しだけ緊張がほどけていきます。
小屋までは、あと半分ほどです。

もうすぐ赤岳鉱泉です。
赤く染まる、冬の夕暮れ

夕方、赤岳鉱泉へ戻るころ、山が夕日に染まり始めました。
白い雪の山肌に、赤い光がゆっくりと広がっていきます。
アーベントロートと呼ばれるこの時間は、ほんのわずかです。
それまで冷たく見えていた山が、夕暮れの光の中で、少しだけやわらかな表情になったように感じました。

山は、さらに深い赤色に染まっていきました。
空の色も、雪の色も、同じ場所にいながら少しずつ変わっていきます。
強い風と寒さの中を歩いてきた一日でしたが、この景色を見ると、ここまで来てよかったと素直に思えました。
夕日に染まった山は、長い時間そこにあるはずなのに、今この瞬間だけの景色でした。
見逃さないように、しばらく黙って眺めていました。





赤く染まる山の下には、雪の上にテントが並んでいました。
外の気温は、すでに氷点下10度を下回っています。
薄い布の向こうで、どのように夜を過ごすのだろうと思いました。
厳しい寒さの中でも、山のそばで眠りたいと思う人がいる。
その気持ちは、少しだけ分かるような気がしました。
いつか自分も、冬の山でテントに泊まる日が来るのかもしれません。

赤岳鉱泉の中には、強い暖房がありました。
廊下の端から暖かい風が届き、冷えた体が少しずつほどけていきます。
外の厳しい寒さを知ったあとでは、小屋の暖かさがいっそうありがたく感じられました。

窓ガラスは、外気の冷たさで白く凍りついています。
一枚の窓を隔てただけで、外には氷点下の世界があり、中には人が休める暖かな空間がある。
冬の山小屋は、人を守る小さな場所なのだと思いました。
月と星に包まれる夜

18時30分。
星空がきれいだったので、もう一度外へ出ました。
暗い空に、太陽のように明るい月が浮かんでいました。

町の灯りが届かない山の夜では、月の光だけでも、雪の上が驚くほど明るく見えます。
夜なのに、山や建物の輪郭がはっきりと残っていました。
音の少ない夜の中で、月の光だけが静かに雪を照らしていました。


空を見上げると、町では見ることのできないほど多くの星が広がっていました。
手元の温度計は氷点下15度。
立ち止まっていると、指先も顔もすぐに冷えていきます。
それでも、もう少しだけ空を見ていたいと思いました。
星が特別に輝いているのではなく、町の明かりから離れたことで、本来の夜空が見えているのかもしれません。
空いっぱいの星に包まれていると、自分が広い山の中に、ほんの小さく立っているように感じました。
凍える朝、山を下りる

12月20日、7時。
朝になっても、小屋の中はとても冷えていました。
この時間はまだ暖房が入っておらず、手元の温度計は室内でも氷点下10度を示していました。
屋根や壁に守られた室内であっても、冬の山の寒さは簡単には遠ざかりません。


冷えた道具を整えながら、下山の準備を始めます。
赤岳鉱泉をあとにして

8時30分、赤岳鉱泉を出発しました。
昨日、夕日に染まる山を見た場所も、星空を見上げた場所も、朝の光の中ではまた違って見えます。
山小屋を離れると、楽しかった時間が終わってしまうようで、少し名残惜しく感じました。
けれど、山旅は無事に戻るところまで続いています。
雪の道を、美濃戸口へ向かって歩き始めました。

10時40分、美濃戸口に戻りました。
茅野駅へ向かうバスに乗ると、緊張していた体が少しずつゆるんでいきました。

窓の外には、さきほどまで歩いていた八ヶ岳が大きく見えています。
山を離れたあとに見上げると、あの白い山の中で過ごした時間が、少し不思議なことのように感じられました。


茅野の町からも、八ヶ岳の山並みがよく見えました。
山の中にいるときは、その大きさの一部しか見えていませんでした。
遠くから眺めると、いくつもの峰がつながり、大きなひとつの山域をつくっていることが分かります。
強い風、赤く染まる山、月に照らされた雪、空いっぱいの星。
八ヶ岳で見た冬の景色は、山を離れてからも、心の中に静かに残っていました。
この山旅を振り返って
今回は、美濃戸口から赤岳鉱泉へ向かい、赤岩の頭まで歩きました。
硫黄岳の山頂には届きませんでした。
けれど、この山旅で心に残ったのは、山頂ではなく、冬の八ヶ岳が見せてくれた景色でした。
夕暮れには、白い山肌がゆっくりと赤く染まりました。
冷たく厳しく見えていた山が、その一瞬だけやわらかな光に包まれていく姿に、言葉を忘れるほど心を奪われました。
夜になると、空には数えきれないほどの星が広がっていました。
氷点下の寒さの中でも、もう少しだけ見ていたいと思えるほど、美しく静かな夜空でした。
山頂に立つことだけでは出会えない景色があります。
赤く染まる山を見つめた時間。
星に包まれながら、冬の夜空を見上げた時間。
冬の八ヶ岳で過ごした一日は、山の美しさに触れることができた、忘れられない山旅になりました。
八ヶ岳
場所
長野県諏訪郡富士見町立沢
近隣の山
- 天狗岳1 (距離: 2.6 km, 標高: 2646 m, 標高差: -114 m)
- 赤岳 日本百名山 山梨百名山 (距離: 3.1 km, 標高: 2899 m, 標高差: 139 m)
- 権現岳<西岳> (距離: 6.3 km, 標高: 2398 m, 標高差: -362 m)
- 横岳1 (距離: 1.4 km, 標高: 2830 m, 標高差: 70 m)
- 権現岳 山梨百名山 (距離: 5.5 km, 標高: 2715 m, 標高差: -45 m)
- 編笠山 山梨百名山 (距離: 6.7 km, 標高: 2524 m, 標高差: -236 m)
- 峰の松目 (距離: 1.8 km, 標高: 2568 m, 標高差: -192 m)
- 阿弥陀岳 (距離: 3.1 km, 標高: 2805 m, 標高差: 45 m)
- 権現岳<三ッ頭> (距離: 6.3 km, 標高: 2580 m, 標高差: -180 m)
周辺の山小屋(半径5km以内)
| 山小屋(五十音順) | 営業状況・予約 | 2食付き | 素泊まり |
|---|---|---|---|
| 赤岳鉱泉 | 通年営業 通年営業予約 | 14,000円 | 11,000円 |
| 赤岳山荘 | 通年営業 通年営業予約 | 9,000円 | 6,000円 |
| 赤岳頂上山荘 | 営業予定 2026年7月4日 (土) 〜 10月25日 (日) 予約 | 13,000円 | 10,000円 |
| 赤岳天望荘 | 営業中 2026年4月25日 (土) 〜 11月8日 (日) 予約 | 13,000円 | 10,000円 |
| 硫黄岳山荘 | 営業中 2026年4月29日 (水) 〜 11月上旬 予約 | 14,000円 | 11,000円 |
| オーレン小屋 | 営業中 2026年4月25日 (土) 〜 11月1日 (日) 予約 | 14,000円 | 10,000円 |
| キレット小屋 | 休業中 休業中 | - | - |
| 行者小屋 | 営業中 2026年5月30日 (土) 〜 10月31日 (土) 予約 | 14,000円 | 11,000円 |
| 黒百合ヒュッテ | 通年営業 通年営業予約 | 12,000円 | 8,000円 |
| 権現小屋 | 休業中 休業中 | - | - |
| しらびそ小屋 | 通年営業 通年営業予約 | 13,000円 | 9,500円 |
| 青年小屋 | 営業中 2026年4月25日 (土) 〜 11月上旬 予約 | 11,500円 | 1,500円 |
| 夏沢鉱泉 | 通年営業 通年営業予約 | 15,000円 | 12,000円 |
| 根石岳山荘 | 営業中 2026年4月下旬 〜 11月下旬 予約 | 16,000円 | 13,000円 |
| ヒュッテ夏沢 | 冬季休業 現在営業していません予約 | - | - |
| 本沢温泉 | 通年営業 通年営業予約 | 13,000円 | 10,000円 |
| 美濃戸山荘 | 営業中 2026年4月下旬 〜 10月上旬 予約 | 10,000円 | 7,500円 |
| やまのこ村 | 営業中 2026年4月下旬 〜 10月下旬 予約 | - | - |
| 山びこ荘 | 営業予定 2026年7月上旬 〜 10月下旬 予約 | - | - |
- 宿泊/テント場料金は?
- 温泉/風呂はある?
- 注意事項は?
などの詳細な情報は以下に記載しています。
コース
美濃戸口から赤岳鉱泉へ
1日目(2015.12.19)
美濃戸口→赤岳鉱泉→赤岩の頭
2日目(2015.12.20)
赤岳鉱泉→美濃戸口
| 出発 8:30 | 赤岳鉱泉 AM8:30出発 | |
| 10:00 | 美濃戸登山口 | |
| 到着 10:40 | 美濃戸口(八ヶ岳山荘) Total時間:約2.1時間 歩行距離:約6.4km |
アクセス
気象情報
| 日付 | 場所 | 天気 | 気温 |
|---|---|---|---|
| 12.19 | 美濃戸登山口 | 晴れ | -9度 |
| 12.19 | 赤岳鉱泉 | 晴れ | -15度(最低) |
| 12.20 | 美濃戸登山口 | 晴れ | -10度 |
| 12.20 | 赤岳鉱泉 | 晴れ | -15度(最低) |



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